メンタルヘルス不調者の復職支援において、主治医の先生から「最初は半日からの勤務を」「短時間での勤務が望ましい」といった診断書が提出されることは珍しくありません。患者さんの負担を減らしたいという主治医の意図は理解できますが、企業としてこれを安易に受け入れることは、従業員の健康面や法的な側面から多くのリスクを孕んでいます。 本記事では、なぜ安易な時短復職(リハビリ出勤制度がない場合)が推奨されないのか、そして産業医として推奨できる「慣らし」の範囲について解説します。
「労務提供」の原則
本コラムは企業の人事労務担当者の方向けに記載しているため、「不完全労務提供」という概念について詳細な説明は割愛しますが、原則を確認しておきましょう。一般的に、従業員と労働契約を「1日8時間勤務」として結んでいる場合、4時間しか勤務できない状態は契約に沿った労務提供ができていないため、「不完全労務提供」と解されます。
法的には、企業がこの不完全労務提供を許容する義務はないというのが一般的な解釈です。(詳細な法的側面については、法律の専門家による解説記事等をご参照ください。)
産業保健から見た「不完全労務提供」の課題
法的な課題はさておき、産業医の実務上、私傷病での休職の後に「時短勤務」で職場復帰することには、多くの弊害があります。 主治医から「半日勤務から就業可」といった診断書が提出された場合、現場では以下のような実務的な問題が発生します。
- その配慮(時短)はいつまで行わなければいけないのか?
- 配慮をしている間の同僚の業務負担や、上司の監督負担をどう考えるか?
- 他の従業員からも同様の配慮を求められた場合にどう対応するか?
- 半日勤務からフルタイムに増やそうとしたタイミングで、増やせなかったらどうするか?
これらを曖昧にしたまま復職させ、もし体調が悪化してしまった場合、企業の安全配慮義務上の問題となりますし、産業医としては「もう少し休んでいれば、元気に働けたかもしれない」と悔やまれる結果になりかねません。
「不完全労務提供」を受け入れても良い5つの条件
そのため、基本的には「半日勤務」などの不完全労務提供は、例え主治医の診断書であっても、産業医としては慎重な判断を行います。少なくとも主治医に書面で「医学的な理由」や「見込み期間」を問い合わせ、企業の受け入れ態勢を加味して判断します。
例外的に不完全労務提供を受け入れるケースもありますが、それには以下のハードルをすべてクリアした上で受け入れることを推奨しています。
- 制度の整備: 就業規則に「リハビリ出勤」や「短時間勤務」の規定があること。
- 期間の明示: 「いつまで」不完全な状態が続くのか、主治医から明確に示されていること。
- 現場の希望: 職場が「たとえ半日でも良いから戻ってきてほしい(休んでいる本人に特殊スキルがある等)」と切望していること。
- 給与の合意: 働けない時間の給与控除について、本人が納得し合意していること。
- 再休職基準: 期間内にフルタイムに戻れなかった場合の取り扱い(再休職等)が合意されていること。
これらが曖昧なまま復職を認めると、「いつまでもフルタイムに戻れない社員」と「対応に疲弊する現場」という不幸な状況が固定化されてしまいます。
特に「1.制度の整備」「4.給与の合意」は人事労務担当者様の守備範囲です。「3.現場の希望」「5.再休職基準」は、復職前に上司・人事・産業医でのすり合わせが必須です。「2.期間の明示」については、産業医から主治医へ医学的評価を含めて確認するのが確実でしょう。
なお、これら1〜5の準備が整っていたとしても、短縮勤務は最長でも1カ月を目処とし、フルタイム勤務へ移行することを推奨します(状況によりケースバイケースですが、ダラダラと続けることは避けるべきです)。
「時間」は厳守し、「成果」で配慮する
ここまで、「不完全労務提供」を、勤務時間の側面でみてきました。それでは、復職直後から勤務時間ではなく、業務の成果も「完全な労務提供」が必要か?というと、そうではありません。
私たちが推奨するのは、「労務時間の提供」と「成果の提供」を分けて考えるという視点です。 以下の図をご覧ください。横軸が労働時間の提供、縦軸が仕事の成果です。

- 労務時間の提供(横軸): ここは「契約」の根幹です。原則として最初から100%(定時勤務)ができる状態でなければ、復職のスタートラインに立っていないと判断すべきです。ここが不完全だと、生活リズムが整っていなかったり、そもそも仕事をするのに十分な体力がない状態などを含めて、再休職リスクが極めて高い状態であると考えられます。
- 仕事の成果(縦軸): 一方で、復職直後から100%のパフォーマンス(図のAエリア、Cエリア)を求める必要はありません。 最初は「最低限の業務だけでOK」「定型業務だけでOK」といった、図のBエリア(成果は低いが、時間は守れている状態)からスタートし、数ヶ月かけて徐々にパフォーマンスを上げていく(図のAエリアへ移行する)計画を立てれば良いのです。
目指すべきは、「時間はきっちり守るが、成果は徐々に上げていく」(図のBエリアからAエリア)という合意形成です。一番避けるべきは、左下(Dエリア:時間も成果もダメ)からスタートすることです。 左上のCエリア(時間は短いが成果は高い)は、特殊な専門職などで職場が強く望む場合に限り検討されますが、基本的には「Bエリア(フルタイム・低負荷)」で復職し、徐々にAを目指すことが、本人にとっても最も負担の少ないルートであると考えます。
産業医の役割は「主治医との緩衝材」
主治医が「半日勤務」と書く背景には、「患者さんとの信頼関係を維持したい」という思いがあることが多いです。
そこで、「定時勤務が難しい体調では職場復帰は延期してもうしばらく療養を推奨する」という産業医意見を利用することで、以下のメリットが生まれます。
- 主治医の顔が立つ: 「私が止めたのではなく、会社のルール(産業医)でダメだった」と説明できるため、主治医と患者の関係が悪化しません。
- 本人が休息できる: 焦って復職しようとする本人に対し、大義名分を持って「まだ休むべき時期」と伝えられるため、結果としてしっかり療養できます。
実際はいきなり「不可」とするのではなく、産業医から主治医に書面で状況を説明し、「もう少し休む方が良いか」などを問い合わせた上で、関係者全員が同じ方向を向いて療養継続につなげることがベストです。産業医は、このように関係者の間に入り、緩衝材のような役割を持って意見調整を行います。
ファクトリーヘルス株式会社では、こうしたきめ細やかな対応を含め、再休職を防ぐための復職支援をサポートします。判断に迷う診断書が出された際は、ぜひ一度ご相談ください。

